拓く創造企業

通常の文と同時印刷 市場は限定的 海外にも進出
ワープロ感覚で点字作成


 パソコンに「は・じ・め・ま・し・て」と入力し、マウスでクリック。すると画面には「初めまして」の文字の上に小さい点が数個表示される。専用プリンターで印刷すれば、紙には点字の細かい凹凸がくっきり。金子秀明社長は「普通のワープロソフトで文章を作ってるみたいでしょ」と胸を張る。

六つの点の配置によって五十音や数字などを表示する点字。視覚障害者が文字を読むために不可欠なコミュニケーション手段だが、健常者が点訳したり、読んだりするのはきわめて難しい。
「健常者でも点字の文書がつくれるソフトを作ってほしい。」電子地図ソフトや経理ソフトを手がけていた同社が点字に出会ったのは一九九二年ごろ。世田谷区の福祉担当者から相談されたのがきっかけだった。

さっそく点訳ソフトの開発に取りかかったが、課題は単語や文節の切れ目を自動判別する機能。文章をすべて仮名で表現する点字は「このまえ かぞくと なごやに いきました」と単語や文節の間に空白を入らなければ読みにくい。

かつて同社は政府の委託事業で「日本語の解析研究」を手がけた経験があった。文章構造や単語別の使用頻度を徹底的に検証したが、製品化に結びつく成果はなかった。しかし、点訳ソフトの開発段階で「一度は失敗した研究の蓄積が生き返った」(同)。課題を克服して自動点訳ソフトが完成。世田谷をはじめ新宿や杉並、葛飾区などで相次ぎ採用され、会社も福祉機器に本格参入することになった。

ユーザーからの要望で点字の読み取り機、点字プリンターなど商品分野を次々に拡大。主力製品の点字プリンター「ドッグ・マルチ」は点字、通常の漢字仮名交じり文を同時印刷できる機能が特徴で「海外の大手でも同様な機能を持つ製品はない」(同)という。

製品開発は順調だったが不安もあった。厚生労働省の調査によると日本国内の視覚障害者は全国に三十万人。点字が読める人はその約一割とされる。社会的な意義のある製品だが、市場規模は限られている。そこで金子社長は海外に飛んだ。

 二〇〇〇年ごろから海外の見本市に点字プリンターやソフトを出品。すると現地の障害者団体やソフト開発会社から問い合わせが殺到した。〇三年には英語や中国語、ハングルなど多言語に対応する点字プリンターを開発。ソフトも現地企業や大学などと協力して外国語版を作成し、現在三十二カ国・地域に製品を出荷している。

最近の金子社長の悩みは「うちの製品の価格が世界一高い」ということ。ドッグ・マルチの販売価格は百三十万円、海外でも円換算で同水準になっている。

国内外で需要を開拓し、プリンターの年間出荷台数を現在の三百台から一千台に増やすことが当面の目標だ。「最近はアフリカ諸国からの問い合わせも増えている。発展途上国の視覚障害者にも利用してもらえれば」と金子社長は意気込んでいる。

(恭)

pagetop

Copyright (C) 1986-2023 日本テレソフト All rights reserved.